アスベスト健康被害の給付金とは?対象者や金額、申請方法などについて解説

アスベスト健康被害の給付金とは?対象者や金額、申請方法などについて解説

更新日:2025年11月17日

この記事でわかること

  • アスベスト給付金の種類・対象者・金額
  • アスベスト給付金をスムーズに受け取るためのポイント
  • アスベスト給付金がもらえる時期

アスベスト(石綿)による健康被害を受けた方々に対し、国が用意した救済制度にはさまざまなものがあります。

しかし被害者の方が、どの給付金の対象者でどのような手続をすればいいのかを把握するのはなかなか難しいことです。

そこで本コラムでは、アスベスト健康被害に対する給付金の種類や受給要件、申請方法などを制度ごとに詳しくご紹介します。
ご自身の状況と照らし合わせながら、受け取れる給付金について理解を深めていきましょう。

目次
  1. アスベスト健康被害を救済する3つの給付金とは?
    1. ①建設アスベスト給付金
    2. ②労災保険の給付
    3. ③石綿健康被害救済制度の給付
  2. アスベスト健康被害に対するその他の救済制度
  3. アスベスト健康被害の給付金は請求期限・時効に注意
    1. 建設アスベスト給付金の請求期限
    2. 労災保険の給付の時効
    3. 石綿健康被害救済制度の給付金の請求期限
  4. アスベスト健康被害の給付金をスムーズに受け取るには?
    1. 適切な給付金制度を判断する
    2. 必要書類に不足や不備がないようにする
    3. アスベスト健康被害に詳しい弁護士へ相談する
  5. アスベスト健康被害の給付金に関するよくある質問
    1. アスベスト健康被害の給付金はいつもらえる?
    2. アスベスト健康被害の給付金に税金はかかる?
    3. アスベスト健康被害の給付金請求は自分でできる?
  6. まとめ

アスベスト健康被害を救済する3つの給付金とは?

アスベスト(石綿)による健康被害の給付金制度とは、アスベストにさらされた(ばく露)ことで中皮腫や肺がんなど特定の疾病を発症した方やその遺族に対し、国が給付金を支給する制度です。

給付金制度には、以下の3つがあります。

  1. 建設アスベスト給付金
  2. 労災保険の給付
  3. 石綿健康被害救済制度の給付

それぞれ詳しく見ていきましょう。

①建設アスベスト給付金

吹付作業や建設作業などでアスベストを含む建材を扱う建設現場で働き、健康被害にあった方や遺族の方は、アスベスト(石綿)に起因する病態に応じて、給付金が受け取れます。

建設アスベスト給付金の受給要件と、病態に応じた給付金額、申請方法は以下のとおりです。

【受給要件】

  1. 昭和47年10月1日~昭和50年9月30日までの間に石綿の吹付けに関する業務を行ったこと、または、昭和50年10月1日~平成16年9月30日までの間に屋内の建設作業現場にて石綿粉じんにばく露する作業に従事していたこと

    ※昭和47年10月1日~昭和50年9月30日までの間は吹付作業に限る。

  2. その結果、アスベスト(石綿)に起因する石綿肺、肺がん、中皮腫、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の健康被害を被ったこと
  3. 労働者や一人親方等であったこと(またはその遺族であること)

なお、建設アスベスト給付金は、労災保険の給付や石綿健康被害救済制度の給付の支給を受けている場合にも請求できます。

【受け取れる金額】

病態に応じて、550万円~1,300万円の給付金が受け取れます。

病態 慰謝料基準額
死亡 1,300万円
石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)、肺がん、中皮腫、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水による
1,200万円
石綿肺(管理2・3で合併症なし)による
肺がん 1,150万円
中皮腫 1,150万円
著しい呼吸機能障害を伴う
びまん性胸膜肥厚
1,150万円
良性石綿胸水 1,150万円
石綿肺
じん肺管理区分の管理4
1,150万円
石綿肺
じん肺管理区分の管理3
950万円 (合併症がある場合)
800万円 (合併症がない場合)
石綿肺
じん肺管理区分の管理2
700万円 (合併症がある場合)
550万円 (合併症がない場合)

なお、すでに給付金を受給している方の症状が悪化し、病態区分が変更になった場合、追加給付金を請求することが可能です。
追加請求した場合は、変更後の病態区分の支給額とすでに受給した支給額との差額が支給されます。

【申請方法】

必要書類を収集のうえ、厚生労働省労働基準局労災管理課の「建設アスベスト給付金担当」宛てに郵送します。
この際、簡易書留やレターパックなど配達状況が確認可能な方法で郵送するようにしましょう。
必要書類は、請求される方が被害者ご本人かご遺族の方か、すでに労災の認定を受けたかどうか、などによって異なります。
詳しくは厚生労働省のWebサイトをご覧いただくか、アスベスト健康被害に詳しい弁護士にご相談ください。

<建設アスベスト給付金支給開始の背景>

アスベストを含む建材を用いて建設作業に従事していた元建設作業員とその遺族が、「アスベストによる健康被害を被ったのは、国が規制権限を適切に行使しなかったから」だとして国家賠償法に基づく損害賠償を求めた訴訟について、2021年5月17日、国と建材メーカーの賠償責任を認める最高裁判決が言い渡されました。

この最高裁判決を受けて、2021年5月18日に「基本合意書」が締結され、2021年6月9日に「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(給付金法)」が可決・成立。

この法律により、建設アスベスト被害者やその遺族は、訴訟手続を行わずに、最大1,300万円の給付金を国から受け取れるようになりました。

【注意事項】

給付金制度の受給要件を満たしていても、支給額が10%減額されるケースがあります。

減額されるのは、建設現場でアスベストにさらされていた期間(ばく露期間)が下記の一定期間を下回っていた場合です。

病態 ばく露期間
肺がん(※)・石綿肺 10年未満
著しい呼吸機能障害を伴う
びまん性胸膜肥厚
3年未満
中皮腫・良性石綿胸水 1年未満

※肺がんでばく露期間が10年未満かつ喫煙の習慣があった場合、給付金の19%が減額

②労災保険の給付

労災保険給付は、仕事中に負傷、疾病、障害、死亡などの業務災害を被った労働者の方や遺族の方に対し、労働者災害補償保険法に基づく費用や年金などが支給される制度です。

アスベストによる疾病が労働基準監督署により「仕事を原因とした病気(業務上疾病)である」と認められれば、労災保険給付を受けられる可能性があります。
労災保険による給付の受給要件と、給付の種類、申請方法は以下のとおりです。

【受給要件】

  1. アスベスト(石綿)ばく露作業に従事していたことがある
  2. 中皮腫・肺がん・びまん性胸膜肥厚・石綿肺・良性石綿胸水のいずれかを発病または発病し死亡した

【給付の種類】

給付の種類 給付対象となるケース 給付内容
療養(補償)給付 療養する場合 必要な療養費の全額
休業(補償)給付 療養のため、労働できず賃金を受けられない場合 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額
傷病(補償)年金 療養開始から1年6ヵ月経過しても病気が治癒しない場合 傷病等級に応じ、給付基礎日額の313日分から245日分の年金
障害(補償)給付 病気が治癒したあと、障害が残った場合 障害等級に応じ、給付基礎日額の313~131日分の年金または給付基礎日額の503~56日分の一時金
介護(補償)給付 病気が治癒したあと、障害が残り介護が必要となった場合 <常時介護の場合>
介護費用として10万5,130円まで
(親族等により介護を受けており介護費用を支出していない、または支出額が57,110円を下回る場合は57,110円)
<随時介護の場合>
介護費用として52,570円まで
(親族等により介護を受けており介護費用を支出していない、または支出額が28,560円を下回る場合は28,560円)
遺族(補償)給付 指定疾病に認定された方が亡くなった場合 遺族の人数等に応じ、給付基礎日額245日分から153日分の年金
葬祭料(葬祭給付) 指定疾病に認定された方が亡くなった場合 31万5,000 円に給付基礎日額の 30 日 分を加えた額
(その額が給付金 60 日 分に満たない場合は、給付基礎日額の 60 日分)

参考:各労災保険給付の支給事由と内容|厚生労働省

【申請方法】

まずは、労働保険給付の請求書を作成します。

厚生労働省『主要様式ダウンロードコーナー』からご自身が請求したい保険給付の請求書をダウンロードして印刷し、必要事項を記入しましょう。
用紙は最寄りの労働基準監督署で受け取ることも可能です。

場合によっては、医師の診断書やCT・MRI・X線写真などの画像、そのほか各種検査結果資料が必要な場合があります。その際には、主治医に依頼して手配してもらいましょう。

必要書類が準備できたら、アスベストを取り扱う仕事に従事していた事業所を管轄する労働基準監督署に提出します。

③石綿健康被害救済制度の給付

石綿健康被害救済給付は、労災保険の対象とならないアスベスト健康被害にあった方や遺族の方に対し、石綿健康被害救済法に基づく費用などが支給される制度です。

石綿健康被害救済法に基づく給付の受給要件と、給付の種類、申請方法は以下のとおりです。

【受給要件】

  1. アスベスト(石綿)のばく露があった
  2. 中皮腫・肺がん・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚・著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺のいずれかを発病または発病し死亡した

    ※良性石綿胸水は対象外

【給付の種類】

給付の種類 給付対象となるケース 給付内容
医療費 治療に必要な医療費の負担が発生した場合 初めて診察・医療を受け療養を開始した日以降の、健康保険等による給付額を控除した自己負担額
療養手当 治療に必要な医療費以外の費用(入通院に伴う諸経費など)の負担が発生した場合 療養を開始した日の翌月から、支給事由が消滅した日の属する月まで月額10万3,870円
葬祭料 指定疾病に認定された方が亡くなり葬祭を行う場合 19万9,000円
特別遺族弔慰金・特別葬祭料 指定疾病に認定された患者が亡くなった場合
  • 特別遺族弔慰金:280万円
  • 特別葬祭料:19万9,000円
救済給付調整金 指定疾病に認定された患者が亡くなるまでに受給した医療費と療養手当の合計が280万円に満たない場合 280万円から受給した医療費と療養手当の合計を差し引いた額

参考:アスベスト(石綿)による健康被害救済給付の概要|独立行政法人環境再生保全機構

また、時効により労災保険による遺族補償給付を受けられなくなった労働者のご遺族に支給されるものに「特別遺族給付金」があります。
対象となる場合、下記いずれかの給付を受けることが可能です。

特別遺族年金または特別遺族一時金 時効で労災保険による遺族補償給付を受けられなくなった労働者が亡くなった場合
  • 特別遺族年金:原則として年額240万円
  • 特別遺族一時金:1,200万円

【申請方法】

所定の申請書と必要な添付資料を用意し、独立行政法人 環境再生保全機構へ提出しましょう(ただし、特別遺族給付金は管轄の労働基準監督署)。

提出した書類は環境再生保全機構によって審査され、医学的判定を要する事項については環境大臣による判定がなされたうえで、認定の可否が決定されます。
認定された場合には、給付を受けることが可能です。

申請書や必要な提出資料、申請窓口など、詳しくは独立行政法人 環境再生保全機構『アスベスト(石綿)健康被害救済給付の概要』をご覧ください。

アスベスト健康被害に対するその他の救済制度

アスベスト健康被害に対する給付金以外の国の救済制度として、工場型アスベスト訴訟による賠償金があります。

過去にアスベスト製品の製造に従事し、健康被害にあった方や遺族の方は、国を被告として国家賠償訴訟を提起し国と和解することで、アスベストに起因する病態に応じて賠償金が受け取れます。

裁判上の和解要件は、以下のとおりです。

【和解要件】

  1. 昭和33年5月26日~昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべきアスベスト(石綿)製品の製造・加工工場で、石綿粉じんにばく露する作業に従事していたこと
  2. その結果、アスベスト(石綿)に起因する石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の健康被害を被ったこと
  3. 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること

アスベスト健康被害の給付金は請求期限・時効に注意

アスベスト健康被害の給付金の請求には期限があります。

受給要件を満たしている場合でも、期限を過ぎると請求できなくなってしまうため注意が必要です。

建設アスベスト給付金の請求期限

建設アスベスト給付金の請求期限は以下のとおりです。

原則 次のいずれか遅い日から20年
(1)じん肺管理区分管理2、管理3または管理4と決定された日
(2)石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断があった日
被害者が死亡した場合 死亡した日から20年

労災保険の給付の時効

労災保険の給付には、以下のとおり種類ごとに異なる時効が規定されています。

給付の種類 時効
療養(補償)給付 療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
休業(補償)給付 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
傷病(補償)年金 時効なし
障害(補償)給付 傷病が治癒した日の翌日から5年
介護(補償)給付 介護を受けた月の翌月の1日から2年
遺族(補償)給付 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
葬祭料(葬祭給付) 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年

石綿健康被害救済制度の給付金の請求期限

給付の種類 請求期限
医療費 医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内
(療養開始日から申請日前日までの医療費は、申請日から2年以内)
療養手当 療養を開始した日の翌月から支給
(療養を開始した日が認定の申請をした日の3年以上前の日である場合は、認定の申請をした日の3年前の日が療養を開始した日となる)
葬祭料 被認定者が亡くなった日の翌日から2年以内
救済給付調整金 被認定者が亡くなった日の翌日から2年以内
特別遺族弔慰金・特別葬祭料 死亡した日の翌日から25年以内
ただし、中皮腫または肺がんにより、平成18年3月27日から平成20年11月30日までに亡くなった方のご遺族からの請求は、令和15年12月1日まで
特別遺族年金または特別遺族一時金 令和14年3月27日まで

アスベスト健康被害の給付金をスムーズに受け取るには?

アスベスト健康被害の給付金をスムーズに受け取るために、以下のポイントを押さえておきましょう。

適切な給付金制度を判断する

アスベスト健康被害の給付金には複数の制度があり、それぞれ要件や金額が異なります。
そのため、ご事情に合わせて適切な制度や優先度を判断したうえで、請求手続をすることが大切です。

なお、場合によっては複数の制度の給付金を請求できるケースもあります。

必要書類に不足や不備がないようにする

アスベスト健康被害の給付金請求には、個別の事情に応じさまざまな書類が必要です。
必要書類を漏れなく揃え、不備のない状態で提出することで、スムーズに審査が進む可能性が高まります。

書類に不足や不備があると追加の資料提出を求められたり、審査が滞ったりして、結果的に給付金の受取りに時間がかかってしまうこともあるため注意しましょう。

アスベスト健康被害に詳しい弁護士へ相談する

アスベスト健康被害の給付金を請求する際には、アスベストのばく露歴(どこで、どのように吸引したか)調査・証明しなければなりません。
しかし、なかには専門的な判断を要するケースもあります。

また、手続をするうえでは、医療や法律・裁判に関する専門的な知識も必要です。

そのため、弁護士に相談することも検討するとよいでしょう。

弁護士であれば、給付金の受給要件に該当するかどうかや、必要書類の適切な判断・アドバイスが可能です。
弁護士によっては資料収集を代行してくれる場合もあるため、手続の負担も軽減できます。

アスベスト健康被害の給付金に関するよくある質問

アスベスト健康被害の給付金はいつもらえる?

およそ以下のとおりの期間がかかるといわれています。

給付金の種類 もらえる時期
建設アスベスト給付金 厚生労働大臣の認定決定があった日の翌月末を目途
労災保険の給付 申請から3ヵ月~6ヵ月程度
石綿健康被害救済制度の給付 申請から3ヵ月~6ヵ月程度

ただし、給付金支給までの期間は明確に公表されておらず、これらはあくまで目安です。
審査状況など個別の事案によって、支給までの期間は大幅に変わることがあります。

アスベスト健康被害の給付金に税金はかかる?

原則として税金はかからないとされています。

アスベスト健康被害の給付金請求は自分でできる?

アスベスト健康被害の給付金の請求は、ご自身で行うこともできます。

ただし、ご自身で給付金の請求手続を行う場合、以下の作業を行わなければなりません。

  • 給付金の受給要件を把握する
  • 要件に該当するかどうかを事前に判断する
  • 必要な資料を選定し収集する

給付金の受給要件を理解したうえで必要な資料を収集するのは、想像以上に手間と時間がかかります。
そのため、少しでも不安があれば弁護士に相談するのがおすすめです。

まとめ

アスベストによる健康被害に対しては、「建設アスベスト給付金」「労災保険」「石綿健康被害救済制度」など、複数の救済制度が設けられています。
それぞれ受給要件や申請方法が異なり、請求期限も定められているため注意しましょう。

スムーズに給付金を受け取るためには、ご自身の状況に合った制度を適切に判断し、期限内に手続を行うことが大切です。
どの制度を利用できるか、複雑な手続や資料収集にご不安がある場合は、アスベスト給付金に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

アディーレ法律事務所なら、アスベスト健康被害の給付金・賠償金請求に関するご相談は何度でも無料です。
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